八王子夢美術館で展示中の
川瀬巴水『旅と郷愁の風景』展に行って来ました。
川瀬巴水(かわせ はすい)は、大正から昭和にかけて活躍した木版画家。
全国を旅して、その風景を版画にしました。ノスタルジックな作風から旅情詩人とも呼ばれています。
スティーブ・ジョブスも愛した版画家なんですよ。
私が初めて川瀬巴水を知ったのは今から2年程前。
富士美術館で開催されていた『旅路の風景−北斎、広重、吉田博、川瀬巴水−』です。
そこでは、江戸時代と近代の木版画を時代別に展示していました。
旅路の浮世絵といえば富嶽三十六景の葛飾北斎、東海道五十三次の歌川広重が有名ですよね。
その有名な作品を目の前にして、いちいち、首を小さく縦に振りながら感心したのを覚えています。
でも、残念なことに、そのときは川瀬巴水の作品に関しては、色が綺麗な“広重の近代版“というくらいの印象しかなかったんです。
今回の夢美術館『旅と郷愁の風景』は、私にとってドストライク。
もう、すっかり川瀬巴水に魅了されてしまいました。
なんで、2年前は心に響かなかったのだろう。
出逢いのタイミングとはこういうことなのかな。
もちろん、展示の構成も関係あると思いますが…。
第一章:版画制作を始めた頃から関東大震災が起きるまで
第二章:震災という大きな出来事を経て変化した
第三章:太平洋戦戦争前後から晩年まで
『旅と郷愁の風景』では、旅情詩人とも呼ばれた川瀬巴水の画家としての生涯、巴水の人間らしさ、作品の裏にある物語に触れることができましたよ。
なんといっても生涯の戦友である版元の渡邊庄三郎との出逢いを知ることができてよかった。
渡邊庄三郎は、新時代の木版画を推進した立役者。震災で全てを失ってもなお、立ちあがろうと励ましてくれた存在なんですね。情熱が素晴らしい。
渡邊庄三郎がいなかったら、巴水の作品は存在しなかったんだと思うと感慨深い。
なかでも巴水の最後の作品『平泉金色堂』に感動してしまいました。
それは、岩手県平泉にある中尊寺金色堂の雪景色を描いたもの。
雪の降る中、ひとり階段を登っている修行僧がいるのですが、その背中は穏やかにも、寂しげにも見えました。
解説には、「雪景色に溶け込むような修行僧の姿は、諸国を巡って画業に励み、人生の終わりを迎えようとする巴水自身に重ねられているかのようである」とありました。
まさに、その通りですね。
川瀬巴水は74歳に胃がんで亡くなっています。その療養中に病気と闘いながら筆をとっていたのだけど、完成させることができないまま逝ってしまいました。残念。
渡邊庄三郎は、その作品を巴水の百箇日までに完成させて、親族や知人にだけ配ったといいます。
どこまでも信頼し合えた仲だった二人。
辛いことも嬉しいことも共にした二人。
渡邊庄三郎は、未完の絶筆作品を仕上げるときに何を考えたのか。
あの世で、自分の未完作品を渡邊庄三郎に完成してもらい感無量になっている巴水の気持ちを想像してしてみました。
う〜ん。『平泉金色堂』の前で立ち止まっていると、涙が出そうになって、慌てて移動。
会期は6月2日まで。
もう一度、行ってみようと思います。
受付のところで川瀬巴水グッズ販売。
ガイドブックとしおりを購入しました。
八王子夢美術館
川瀬巴水『旅と郷愁の風景』
2024年4月5日(金)〜6月2日(日)
開館時間:10:00~19:00
休館日:月曜日
観覧料:一般 900円