大正から昭和にかけて活躍した版画家で、「昭和の広重」とも呼ばれています。
新しい浮世絵とも呼ばれる新版画運動を代表する存在であり、日本各地を旅しながら写生を重ね、その風景を版画に残し「旅上詩人」とも呼ばれました。
川瀬巴水の描く世界は、「昭和の広重」とも呼ばれ、日本人の旅情を描き続けました。
そして、この巴水の作品をこよなく愛した人物が、アップル創業者のスティーブ・ジョブズだったことをご存知でしょうか。世界的に評価されたのは技術や構図の美しさだけではなく、巴水の作品に宿る「心の揺らぎ」だったのだと思います。
私は、川瀬巴水の展示会に行ったときに、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズが川瀬巴水の版画を何枚もコレクションしていたということを知りました。その日から、私にとって川瀬巴水は“もっと深掘りしたい人物”となりました。
静かに、ゆっくりと広がる夕暮れの光。雨に濡れた町並みのしっとりとした空気。川瀬巴水の版画は、人々の目となって写し取られた情景を、再び目の前に広げてくれます。
川瀬巴水のことをもっと知りたくて、大田区の郷土博物館を訪ねました。巴水が生まれ育った地で、彼の軌跡に触れることは、さらに深く興味を抱きました。
彼の版画は「心の風景」として、今の私たちの目にも、新鮮に映ります。
巴水は、まさに「人生を旅していた人」だと思います。
その土地に実際に足を運び、空気感や季節の移ろい、天候や時間の流れまでを豊かに表現しました。彼は画家であると同時に、「旅情詩人」とも呼ばれていました。私が心惹かれるのは、巴水が目に見える景色だけではなく、その土地で暮らす人々の息遣いや生活の香りまでも版画に閉じ込めているところです。
だからこそ、一枚の作品の前に立つと、まるで旅の途中でふと立ち止まったときのような感覚を覚えます。そこに漂う静けさや温かさが、胸に深く響いてくるのです。
川瀬巴水に触れる ― 大田区立郷土博物館
川瀬巴水が生まれ育ったゆかりの地・大田区には、地域の歴史や文化を紹介する「大田区立郷土博物館」があります。
特別展や企画展示を通じて、巴水の足跡や作品に触れることができます。
- 所在地:東京都大田区南馬込五丁目11番13号
- アクセス:JR「大森駅」西口から東急バスで約10分、「大田文化の森」下車徒歩5分
- 開館時間:9:00〜17:00(休館日:月曜、年末年始)
作品の奥深さに触れることができて感動です。一筆書きやメモ帳、クリアファイルを買うことができます
もののあはれ
川瀬巴水の版画の前に立つと、胸の奥がかすかに揺れます。
雨上がりの匂いや夕暮れの灯り、静かに広がる水面――。
言葉よりも先に、心がふっと動き出します。
その揺らぎは、本居宣長の説いた「もののあはれ」に通じるもの。
巴水が旅を重ねて描いた情景は、時を超えて今を生きる私たちの心をも動かします。
旅の途中で立ち止まるように、一枚の版画と向き合う時間を大切にしたいと思います。

