泥染とは

泥染とは木のチップを煮出して発酵させたものと、鉄分を含む泥を化学反応させて、繊維を染める技法だ。

私は、奄美大島の大島紬を知っているし、実際にその着物も持っている。あの独特の風合いには、なじみがあるつもりでいた。

複数回の染色を重ねることで、色は茶褐色から、深みのある黒へと染まっていく。何度も染めることで、防虫や消臭の効果も加わるのだそうだ。
「何度も染める」と簡単に言うけれど、それには、どれだけの月日を費やすのだろう。染められているのは色だけではなく、時間や想いもまた、静かに染み込んでいくのだと思う。
木の煮汁を使うことは、なんとなく目に浮かぶ。でも、「泥を使う」と言われると、途端にイメージが難しくなる。私が知っていた大島紬の風合いと、泥という言葉のあいだには、まだ埋まらない距離があった。

歴史

奈良時代の文献にも、その名が記されているという。
1300年以上前から奄美大島で続いてきた染めの技法だと知り、土の色が、急にはるか遠い時間とつながった気がした。

元々、奄美大島には、車輪梅(しゃりんばい)の煮汁で糸を染める技法があったという。車輪梅は、バラ科の常緑樹で、東京都内でも庭木とされていることも多く、散歩をしているとよく見かける。甘い香りのするピンク色の花が可愛らしい。

しばらく庶民の自家用とされていた泥染は、江戸時代になると、薩摩藩への上納品となるほどの高級品として扱われるようになった。
薩摩藩は庶民に贅沢を禁じ、車輪梅で染めた着物の着用も禁止した。
それを持っていた農家の主婦は、役人に見つからないよう、反物を泥田に隠したという。必死の思いだったのだろう。すると、その反物が、美しく深みのある黒色に染まっていた。

偶然の発見が、泥染の始まりだった。

新しいものを生み出そうとしても、そう簡単にはできることではない。けれど、困ったことをどうにかしようとしたときにこそ、思いがけない発見が生まれることがある。

そんなエピソードに、私は爽快さと、少しの嬉しさ、そして励まされる気持ちを覚えた。