走った階段と、待ってくれた電車
田切駅での、ほんの数分の出来事。
走って、焦って、でも最後には心があたたかくなる——
小さな無人駅で出会った、やさしさの記憶。
友人宅の最寄駅は無人駅。
長野県上伊那郡飯島町にあるJR東海飯田線の「田切駅」。
田切駅は、アニメ『究極超人あ~る』の舞台としても知られていて、聖地巡礼の発祥地とされている。駅のホームは、盛土高架上にあるので、階段を上って行く。これがまた狭くて上りにくい。つい、よいしょ、よいしょと小さな声が出てしまう。この狭い階段と小さなホームは、田切の自然に調和していて良い雰囲気を醸し出している。
私は、この駅からの眺望が大好きだ。
電車を待つ間、南アルプス、中央アルプスの山々、田んぼや集落、絵画を切り取ったような眺めながら自然を満喫する。時間の流れがゆっくりになった感じで居心地がいい。
地元の人は、電車を利用する人は少ないようで、座れないほど混んでいるところを見たことがない。
数年前のある日、友人と二人で田切駅から電車に乗った。時間ギリギリ。ホームに上る前に向こうから電車が来るのが見えた。
私たちは大慌て。
「きゃー、待って~」
電車に向かって大きく手を振って、「私たち乗ります。待ってください」と猛アピール。二人で必死に階段を上った。この時ばかりは、狭い階段が景色に合っているとか風情があるとか、そんなことはどうでも良くて、上りにくくて恨めしかった。二両編成の電車は、私たちより先にホームに到着した。
「乗ります、乗りまーす」大きな声で叫んだ。
ギリギリセーフ? それともギリギリアウト?
おそらくアウトだ。しかし、運転士はさんは私たちの必死の形相に気づき、ドアを開けて待っていてくれた。おかげで、電車に乗ることができた。
電車の中に入ると、乗客から注目を浴びた。「どうもすみません、ありがとうございます」お待たせしてしまって申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちで謝った。目の合った高齢の女性は、ハイハイ、大丈よ。と言うように微笑んでくれた。
私と友人は、息を切らせながらシートに座った。「はあ、よかったねー」「運転手さん、待っていてくれたね。ありがたいね」
ほんの数秒の出来事だったけど、心も体も温まった。もちろん駆け込み乗車は危ないから絶対やってはいけないこと。これからはもっと時間に余裕を持って景色を楽しみながら電車を待とうと思う。
ほんの一瞬の反省すべき出来事の中に、地域の人々の温かさや、田切駅の静かな魅力を再認識した。そして、日常の中での小さな親切が、旅の思い出をより特別なものにしてくれることを改めて実感した。