北海道・十勝、幕別町忠類。

広い空の下で、馬と羊たちと暮らしながら、「ミニ牧場いがらし」と「忠類工房」を営んでいる、元気なおばあさんがいる。

おばあさんの名前は、五十嵐豊子さん。

今年、89歳になるというのに、今でも自分の手で馬たちの世話をしている。体は小柄だけれど、牧場に立つ姿は驚くほどしゃんとしている。晴れの日も、雨の日も、雪の日も、毎朝馬小屋の手入れを欠かさない。

「ミニ牧場」と「忠類工房」は、国道236号線沿いにある「道の駅 忠類」のすぐ近く。厩(うまや)を増築した二階がおばあさんのお城だ。階段を上り下りする様子には、実に軽やか。

「ミニ牧場」では、ポニーを飼い、種馬の飼育も行っている。数年前まで羊もいた。「昔は、多いときで羊47頭いたよ。ポニーは7頭いたよ」

厩の掃除、餌やり──どれもかなりハードな仕事ばかり。

おばあさんの足腰の丈夫さには驚かされる。とても89歳(正確には、誕生日を迎える前なので88歳)には見えない。忠類工房では、羊毛を紡いで毛糸を作り、その毛糸で靴下や帽子を編んでいる。毎年「道の駅忠類」のナウマンゾウの親子像の背中に、おばあさんとそのお仲間が編んだ毛糸のショールを巻き付ける。この活動は24年間続いていると言う。

「死んだらできないからさ」

おばあさんは、羊毛を紡ぐところから編み物までを教える先生でもある。コロナ前には、町のコミュニティセンターなどで40~50人規模の羊毛紡ぎ教室を開いていた。足踏み式の紡毛機を使いながら、羊毛から糸へと紡ぐ技術を伝えていた。(紡毛機は16~20台ほど所有していたと思う)

今はまだコロナ禍を経て、大規模な教室は再開できていない。

「また教室をやりたいなあ」とおばあさんは笑う。

私とおばあさんの出会いは、5年前。

おばあさんの家は、私の親戚の家の近くにあった。親戚を訪ねるたび、国道236号線を車で行き来していた。車窓から、牧場のポニーが見えた。「小さいから、きっとポニーだ」と思いながら、誰かが世話をしている姿を眺めた。気になって、車を止めた。そこには「ミニ牧場」と書かれた看板が出ていた。親戚に、「あのミニ牧場、行ってみたい」と相談すると、「馬を触らせてほしいって言えば大丈夫だよ」と背中を押してくれた。それなら、と私は勇気を出して牧場を訪ねた。

ミニ牧場では、タオルを頭に巻いた小柄なおばあさんが、ポニーの顔をなでていた。「すみません、お馬さんを触りたいんですけど」「いいよ~。こっちさ来い」これが、おばあさんとの初めての会話だ。

それから、私はおばあさんと“ともだち”になった。

おばあさんに会うために、3ヶ月おきくらいに北海道に通った。池田町や襟裳岬まで一緒にドライブしたり、ごはんを食べたり、編み物を教わったりたくさんの楽しい時間を共有した。けれど、最近は半年に一度も行けていない。

おばあさん、どうしているかな。ふと顔を思い浮かべる。声が聞きたくなって、電話をする。すると、おばあさんの優しい声が返ってくる。「私もどうしているかなあと思ってたんだよ。こっちから電話しようと思ったけど、忙しかったら悪いからね」そうやって、気遣ってくれる。

最後に、私が「無理しないでね、気をつけてね」「大丈夫、大丈夫。まだ死なないから。早くこっちさ会いに来い」電話の向こうで、笑い声が響く。いつも、顔をくしゃっとさせて笑うおばあさん。その笑顔に、こちらまで温かい気持ちになる。

おばあさんは、周りの人を笑顔にしてしまう魔法の持ち主だ。そろそろまた忠類に行きたいな。おばあさんの元気な笑顔を見るために。

忠類工房とミニ牧場の看板